しらやまさんのこと

1:縁側


かんぬしまちの
おさななじみだったおねえちゃん
がみこさんになったとき
ぼくのこころは
ふ ってはずれて
べっくうさんやのほうに
ぷかり ぷかり
とんでった


きれいだったんやろなあ


毎年三度後悔している



(2005-05-21)


2:歩道


そこから先には進めないときがある
そのたびに思い出す風景があって
背中の方から温もりを感じながらも
とても不安そうな少年の瞳に

問いかけられた言葉

飲み込めないまま
風にもなれず

ときおり
あの雲のように
勝手にすっと入ってきては
心臓のちょっと下あたり
ふるふる
として浮かんでくる

問いかけられた言葉は
そこから先には進めない風景の中で
夕陽にさえ染まらずに
僕は今でも噛み砕いている

遠くの踏み切りや
帰る自転車の光に紛れながらも
遠く 遠くの
空から降りてくるものが見えても

それを今でも
噛み砕いている


(2005-06-02)


3:玉砂利


どうして
こんなにも
遠くなってしまうんだろう


君の温もりの届かない場所へ
朝の
くうきを吸いに行く

そこにはもう

玉砂利の向こうで
手を合わせる人がいる

遠くの誰かのために
手を合わせる人がいる

会える事のない人のために
手を合わせる人がいる

隣を歩き続けている人のためにも
手を合わせる人がいる

遠くの

草の匂いがする
Vegetarian mosquitoのように
朝にはそこに辿り着いて
静かにみどりいろに包まれて
何も願うことのないまま
手を合わせ
僕は
今の僕の場所へと
帰る(何処へ?)
ことができればと
思うのに

振り返る
そのたった半歩で
君の温もりに
ただ 
帰りたくなる

どうして
こんなにも
遠くなってしまった
のだろう


(2005-06-21)


4:幼稚園


卒園式ではいつも以上に
園長先生のお話 長いね
と うちの子供が気にかかる
寝てはいないか
ちょっかい出してはいないか
そんな心配もなんのその
みんなちんまりと神妙な面もちで

ときどき奇声を発する子を
とても優しいお母さんがふんわりと
けっしてぎゅっとではなく
ふんわりと

その中でR君は何を思っているんだろう
知らない世界を旅しているようで
窓の向こうの山々は
そろそろ緑支度をはじめるけど
そのまた向こうの白山さんは
五月までは白いままで
ときどきそっちの方を向いてRくんは

おおう

と声を発する
彼の世界は
あそこにも繋がっているのだろう

さてさて
わが子のクラスは
どうしてそんなに神妙な顔をしていたのか
と思ったら

Rくん ぼくたちはみんな
Rくんの わらったかおが
だいすき 
だよ

と特別ではない特別な言葉を
R君に送るためだったようで
そんなときに限って
Rくんは何も言わない
しばらくして
また何ごともなかったように
いくつもの世界に遊びに行ってしまう

そんな子が同じクラスにいたこと
何年も知らなかったとは
パパとしては情けないよな
と思った帰り道で

まんなかぐみさんまで
Rくんはずっと とじこもっとったけど
おおきいぐみになってからは
いっしょにあそんだげん

でも しょうがっこうは
ちがうげん

という息子は
もう用事のなくなってしまった
園を降りかえる
その向こうには
いつもより輝く白山さん

特別ではない特別なこと
みんな小さい胸を痛めながら
大きくなっていくんだろうか

どこからともなく
高い声が聞こえてきた

Rくん またわらっとる

という息子と一緒に
涙をぬぐった


(2005-06-25)


5:茶店


参道下の古ぼけた店で
岩魚の塩焼きを齧る
雨が降ってるので
ゆっくり と齧る

しらやまさんに降った雨は
百年後の加賀平野を潤す

その雨が

降っているので
ゆっくりとお茶を
すする

次の岩魚の季節に訪ねると
その店は駐車場になっていた


(2005-07-10)


6:虫送り


竹ざおの先に灯火をぶらさげて
小さな子から先にあぜ道を歩いて行く

ひと粒の米に
千もの神が宿っていた頃から続く火で
稲の葉を食べる虫を追い払う

のだと言うが
揺れる火はまるで
人魂のよう 
とは
誰もが気付いていながら
誰も口には出さずに

そんなふうにして
僕も大人になったようで

虫送りの火は遠く
どこまでも遠く
なってゆきながら
いつかは
僕の魂も
その竹ざおの先に
ぶらさがっているのかもしれない

喧嘩太鼓の音に
いくつもの魂がひとつになって
一際高い火柱になって
昇ってゆく

ひとつぐらいは
誰かの竹ざおに
ぶらさがったままでもいいのに

虫送りの火は遠く
どこまでも遠く


(2005-08-06)


7:欄干


試験管の中に
夕陽を詰めてみたりしている

幸せなときほど
言葉少なになって

おじいさん

人はみんな子供だったはず
だよね 

聞こえなくてもいいけど
僕もそこまでたどりつける
といいな


試験管を傾けると
いつしか

砂になってしまった夕陽は
さらさらと少しく風に吹かれ

まあだだよ
と穏やかな逆反応



(2005-12-08)

 

8:公民館


 もう一緒にグラウンドを駆け回ることができない友達について、S君は作文を書いた。その作文を読みながら泣いた。その声を聞きながら、僕も泣いた。
 とてもかなわない し、かける言葉もない。

 春は、一度やって来て、またちょっと引き返したようで、僕らの町にも雪がちらついていた。日本海の冬型の雲はすじ状で、雪の降っている向こうには青い空が広がり、山がまばゆく輝く。日々の生活でほんの少し立ち止まって普段とは違う方向を眺めるだけで、言葉以上の世界が広がっているときがある。少なくとも僕が持ち合わせている言葉よりは。

 僕らは優しくなれる。
 罪多き生き物で、偽善を覚えて、利己主義であっても 優しくなれる。

 もう会えない君へ、
 こんなにも寂しい思いをするのなら、口だけじゃん と言われながらも、優しい言葉をかければ良かったと思う。

 もう会えない君へ、
 夏のグラウンドは暑かったね。
 冬の体育館は冷えたね。
 初めてのゴールはうれしかったね。

 もう会えない君へ、
 山 白く 輝いて 
 まぶしいよ。


(2007-03-19)

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